V. 空中戦
貴官の任地が西部戦線だろうと東部戦線だろうと、もしくは南だろうと北だろうと、そんなことは関係ない。
なぜなら、それが砲術の用法に影響を及ぼすわけではないからだ。 砲術の概念は世界共通なのだ。  
砲術の概念を習得し、訓練を続けて上達せよ。 それは、少なくとも飛行や戦術の訓練と同じくらい重要なのである。  
砲術の概念を習得すれば、自信と優越感を持って戦闘に参加できるだろう。  
貴官ほど思うがままに射撃を練習できる敵はいないのだ。 だから、それを最大限に利用せよ。
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作戦中はつねに警戒を続けよ!
    敵を先に発見すれば、すでに勝ったも同然である。
    ぼんやりしていてはいけない!
注意深い視線で、背後も含めた周囲の空域を滑らかに捜索すること。 そうすれば遠く離れた敵をも見逃すことはないだろう。
    夢うつつで見張りをするな!
    戦友と共に飛べ。 彼らから離れてはならない。
    単機になると間違いなく撃墜されるぞ!  
敵を視界に捉えたら、即座に確認すること:
    銃の電源は入っているか?   
    装填されているか?   
    表示盤に表示されているか?   
    照準器の電源は入っているか?   
    照準器の映像は明るすぎないか?  
冷静に待ちたまえ。 普通は、まだ射撃までに十分な時間があるのだ。  

A. 追尾攻撃

真後ろから攻撃する場合、とりわけ正確に射撃を始める距離を見積もらねばならない。
敵は十分接近しているように見えるだろう。 しかし、それは錯覚である。
敵を偏差リングのなかに置いてみれば実際の距離が解るだろう。
双発爆撃機がちょうど水平照準線の隙間にピッタリおさまれば、それは直径の1/5である。  つまり、距離は5×2=1000m である。
    Fig.23 双発爆撃機、距離1000m
ここで射撃すると命中は望めず、敵に警告を与えるだけだ。 だからもっと距離を詰めよ!
    Fig.24 双発爆撃機、距離600m
いま、敵機はリングの1/3の大きさだ。 依然として3×2=600mも離れている。
さあ、400mだ。敵機の中央を狙え!         
    Fig.25 双発爆撃機、距離400m
狙いを定める時は敵機に集中する。 照準器の周囲に注意を分散してはならない。
短い点射! 照準がずれたら即座に射撃を中止せよ! 敵機の後流には入るな。 機がゆさぶられ、正確な射撃どころではなくなる。
いま、貴官は200mの位置にいる。
        
    Fig.26 双発爆撃機、距離200m
    Fig.27 双発爆撃機、距離100m
命中個所や損傷を明瞭に目視でき、燃料タンクやエンジンなど個々の部分に狙いを集中できる。
いまや完全に正確な射撃ができるのだ。
時間、高度、勝利の記録をとどめておきたまえ。 そして隊列に戻りたまえ。
背後からの単純な攻撃は非常にまれにしか起らない。 通常、撃墜に至るまでにはもっと粘り強さと技量を必要とする。

B.斜め追従攻撃

味方の攻撃で敵の爆撃機編隊が蹴散らされた。 左わずか下方に単機の四発重爆がいる。
    攻撃! すべて問題無し! 行動開始!
貴官は側面から接近しつつあり、偏差を取り始めている。
まず、偏差リングが敵機の4倍になるまで敵に向かいたまえ。
次に、敵に対して偏差を取るよう機を操縦したまえ。 その位置は次のように見えるはずだ。
    Fig28.四発爆撃機 距離1000m、偏差4R
まだ遠すぎる。 このような距離ではまだ射つべきではない。 距離を詰めよ!
距離が減るにつれ、貴官は敵の後方へ回り込み、バンク角は減るはずだ。 その間、偏差をはじめの4Rから滑らかに減らし、敵機の真後ろでは0になるようにせよ。
冷静に待て。方向舵を使いすぎてはならない! 方向舵の修正は大抵いつも乱暴になり、ホウキで掃除するように敵を照準像で掃くことになるだろう。
砲弾の散布界はもともと十分に大きいのだから、このうえ弾着を散らす必要はないのだ。
今、貴官は敵機から400mのところにいる。 偏差は依然大きい。 2Rだ!
    Fig29 後方追従、距離400m、偏差2R
さあ、短く点射、曳光弾に気を取られてはならない。 曳光弾は、ぐるぐる廻りながらホースで水を撒いた時と同じように、右旋回中は左へ流れるからだ。
標的の移動方向に注目せよ。 貴官の追従が正確でなければ偏差も無意味だ。 標的が少しずつ偏差リングの中心にくるようにせよ。 この位置では偏差は依然2Rのはずだ。
すでに標的は巨大にみえるだろう。 しかし、それは錯覚である。 標的は偏差リングの直径にピッタリあてはまる。 つまり、距離は300m。
    Fig30 斜め追従、300m、1 1/2R
    Fig31 斜め追従、250m、3/4R
    Fig32 斜め追従、200m、1/2R
    Fig33 斜め追従、150m、1/4R
    Fig34 斜め追従、100m、0R
    連続射撃。
    敵機が落ちるまで。
    敵は必ず落ちる!

C.格闘戦

敵戦闘機との空中戦。 貴官は突如としてその渦中にある。
    目を見開け! 冷静に!
    弱気になったら負けだ!
前方に一機いる。距離200m。
    Fig35 戦闘機、200m
    短い点射。
敵は即座に旋回に入る。 射撃やめ!
貴官は敵のうしろを撃っているだろう!
偏差を見定めよ、乱暴な射撃をするな!
決定的瞬間のために砲弾を節約せよ。
    敵と共に旋回し偏差を決定せよ。
機を失速するほどきつい旋回に入れてはならない。
    Fig36 誤り!偏差がとれていない。
    Fig37 戦闘機、150m、1R
    そう、それでよし! 撃て! 敵は旋回をきつくする。
    敵の機動に追従せよ!

敵の飛行経路に沿った正しい偏差を取り続けよ。
    Fig38 戦闘機、100m、1/2R
よし、もう一撃。 旋回角を増しても効果はない。 それが偏差の増大に与える影響は小さく、気にするほどのことではない。
敵はきつい旋回をしている。 敵の内側に偏差を保つよう回り込むことができない。 とにかく敵とともに旋回せよ。じきにまた射撃位置につけるように。
    さあ、もう一度射撃位置についた。
    Fig39 戦闘機、100m、1/4R
命中。
敵は右旋回から左旋回へ転じようとしている。 旋回を切り返したので敵は真正面にいる。まっすぐ狙え!
    Fig40 戦闘機、100m、0R
    見よ、敵は火を吹いて落ちてゆく!

D. 前方攻撃

敵の大規模な重爆編隊が接近してきた。 密集編隊を組んで前方攻撃をかけよ。  
貴官は、敵の正確な飛行経路を見極めることができるよう、敵爆撃機の編隊に接近しなければならない。
次に、攻撃する敵編隊が水平尾翼ごしに見えるまで、つまり、敵の4000〜5000m前方に出るまで、同じ方向に 飛び続けよ。
敵編隊を追い越してから5〜7分で、正しい距離につくことができるだろう。  
スロットルをわずかに戻して急旋回で廻りこめ。  
さあ、精密な接近飛行の始まりである。 自機の位置を入念に確認し、正確に真正面から接近すること。
このような距離では、方向の微妙な狂いは見分けにくい。  
最初その誤差は微々たるものだが、戦闘距離においてはすぐに大きくなり、偏差も突然に増大する。 短時間ではとても対処できない。  
    Fig.41 前からみた四発爆撃機、距離1500m  
標的はこのように照準器のなかに現われる。
    標的に真正面から接近せよ!  偏差なし!  
狙いすました瞬間の一撃が敵を落とす。 しばしば三機以上の四発重爆が正面からの一撃で屠られる。      
    戦闘距離に注意!  
まだ遠すぎる。敵が偏差リングの1/5に見える。 つまり、5×3=1500m の距離だ。 貴官が秒速 150m、敵機が秒速 100m なので、彼我はあっという間に接近する。
つまり、相対距離は毎秒250m減少している。  
相対距離800mから300mの間に射撃できる。 つまり時間は2秒間ある。
    この2秒間に全てが起こるのだ。  いま900mだ。
    用意!

    Fig.42 四発爆撃機、距離900m
機体表面のわずかに上を狙って撃て!
    Fig.43 四発爆撃機、距離800m
連続射撃…その間、狙いを滑らかに機体中央に移動するようにせよ。
    Fig.44 四発爆撃機、距離600m
標的は急速に接近し、刻々と巨大に見えてくる。 射撃を続けよ!
    Fig.45 四発爆撃機、距離300m
警戒、急旋回で離脱、急激な方向変化と大偏差角に敵銃手は対処できないだろう。
一緒に攻撃を行った部隊と共に敵編隊の飛行方向へ戻り、次の攻撃のためにその前方へ進め。  
何度も何度も攻撃せよ、敵が墜ちるまで!  
我々の街を、母親たちを、妻達を、子供達を思え。
彼らの生命は、貴官の情け容赦ない攻撃にかかっているのだ。  
    貴官の決意と能力が決定的な要素なのだ。
    考えることはひとつ:敵を撃滅せよ!

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