U 砲術
A.概論 肝に銘ずべし、貴官の行動が空戦の帰趨を制するのだ。直感に頼っていては的確な射撃など不可能である。 愛機はすなわち武器である。その能力を熟知すること。 操縦や戦術だけが勝利の決め手ではない。 砲術の習得と応用も、同様に重要なのだ。 戦闘中に長々と議論や検討をしている暇はない。
それには訓練、訓練、訓練あるのみ! 貴官は最高の火器と弾薬を手にしている。あとは射撃し、撃破するだけである 「実戦的な連中」は砲術についての議論を「机上の空論」で片づけるが、そのような意見に耳を傾けてはならない。 果てしない計算や方程式から定石を見出せというのではない。 戦訓に基づく単純な実例が役立つのだ。 いうまでもないことだが、すべての者が初歩から始めてまったく同じ過ちを繰り返すのは、無駄以外の何物でもない。 それゆえ、達人(存命か否かに関わらず)の経験を学びとること。 可能なかぎり任務につき、練習すること。 熟練のみが成功につながる。 未熟な者も一度やそこらは好運に恵まれることもあるだろう。 しかし長丁場においては、熟練こそが活力となるのである。 B. 火器と弾薬 射撃には、銃と弾薬についての知識が必要である。 銃のすべてのネジの機能、部品の正確な型番まで覚えろとは言わない。 しかし、その基本的な組み立て、正しい操作、運用限界は知っておかなければならない。 加えて、弾薬の機能と操作、火器の命数なども知らねばならない。 何にもまして、正しい操作を覚えること。 絶好の位置につきながら装填スイッチがどこにあるか思い出せず射撃ができなかったという実例は驚くほど多い。 銃にどうやって装填するのか知らねばならない。装填が完了すると、その銃を示す表示盤に表示がなされる。 残弾計が正しくセットされているか確認すること。さもないと、激戦の最中に、あと何発撃てるか解らなくなってしまう。 正しい給弾方法を覚えること! 整備兵が給弾ベルトを装着するのを手伝いたまえ。もし別の基地に降りて、熟練した整備兵がいなければ、自分で弾薬補給をしなければならない。 敵と遭遇する前に武装系のスイッチを入れ、表示盤と残弾計をチェックすること。 定められた射程内でのみ発砲すること。通常、400m以上では、標的は速やかに遠ざかってしまうので発砲すべきでない。これは、MK 108などの大口径の火器についても同様である。 大口径火器のほうが長射程に違いない、ならば小口径火器ほど正確に狙わなくてもいいだろう……などと思うのはありがちな間違いである。
弾薬は少ない! ゆえに弾薬は節約して使い、有効打を与えるチャンスが巡ってきたときにのみ射撃すること。 間合いが近いほど与える打撃も大きいだろう。 実際のところ、3p機関砲で有効打を与える可能性は、小口径火器を用いた場合よりも少しも大きくないのだ。 だから、同じように正確に狙って撃つこと。 実際には、小口径より弾数が少ないので、より正確な射撃を行う必要がある。 もし1000発装填した小口径火器があったとして、それで50発の無駄弾を撃っても大した問題ではない。 だが、60発しか装填していないMK 108で同じことをやったら、それは許されないミスと言えよう!だから、
よく狙え! 正確に撃て! 最低限これだけは覚えておきたまえ。 射撃開始の距離は最大400m。 唯一の例外は前方攻撃で、この時は800mで射撃を開始すること。 ひとたび正確に標的をとらえたら、短い点射のみを行うこと。そうしないと弾薬が続かない。 火器の正しい点検整備に慣熟せよ。武器係が火器の調整や装填を行うのを手伝いたまえ。そうすれば戦闘中に自分の火器が故障しないと確信できる。 C. 照準器 戦闘機には反射式照準器が装備されている。 精密なレンズ機構によって、偏差リングと十字線が、傾斜したガラス板に常に標的と重なって見えるように投影される。 この照準器にはさまざまな利点がある。 標的と照準像とに同時に焦点を合わせて眺めることができる。もはや一定の照準位置に縛り付けられる必要はない。照準像が見えているかぎり、照準を外す心配をせずに頭を前後左右に動かすことができる。 両目を開けて照準することができる。これにより広い視野が得られるし、それ以上に重要なのは、遠近感を保てることである。 照準像の明るさは自由に調節できる。眩しい日差しの下では、薄暮よりも照準像を明るくできる。 照準像が明瞭に視認できるよう明度を調節せよ。 照準像が明るすぎると目標をおおい隠してしまい、照準には役立たない。 離陸前に照準器の電球が点灯するか確かめること。空中で気づいても手後れだ。 照準器の調整は武器係の仕事である。 武器係を手伝い、同時に調整法を学ぶこと。 調整が狂っていたら、武器係を責める前に、まず自分の責任でないかを確認すること。 荒っぽい着陸をしなかったか? あるいは、乗降の際、照準器に掴まらなかったか? または、照準器を揺すったり、固定状態のチェックのとき、調整ネジをゆるめなかったか? ほとんど例外なく、このような取り扱いをしたあとは、調整はもはや正確ではなくなっているであろう。
D. 戦闘距離 敵を守備よく撃墜するためには、火器の威力を最大限に発揮できるよう、敵に十分接近しなければならない。 接近すればするほど、大きな打撃が期待できる。半分の距離に近付けば、4倍の打撃を与えることが望めるのだ。
実例が示すところによると、戦闘距離は相当に小さく目測されるものだ。戦闘報告のなかの距離は、大体において正確だった試しがない。 たとえば、戦闘距離100〜50m と報告されたとき、戦闘記録フィルムを分析してみると実際の距離は200〜400mにも及ぶ。目測距離の誤差は、しばしばもっと大きな値になる。 4発爆撃機編隊への攻撃においては、多くのパイロットが2500〜3000m で射撃を開始している。
こんな距離では、普通の航空機銃では何を撃っても当たりはしない。 このような無駄弾を使っていては、いざ十分な距離に近付いた決定的瞬間には、もう弾が無いという事になる。 だから、覚えておきたまえ。
戦闘距離は、身近にある2つのもので簡単に見積もることができる。すなわち、 1.照準器の偏差リング 2.敵機の翼幅 照準器を透してみると、偏差リングは常に標的に重なって見える。 この円は、その直径が標的までの距離の1/10を表すことにより、距離の測定ができるように設計されている。 100mの距離では、直径は10m 200mの距離では、直径は20m 400mの距離では、直径は40m 1000mの距離では、直径は100m etc |
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双発爆撃機の翼幅は20mである。これが円にピッタリ収まって見えれば、そのとき距離は200mである。
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戦闘機 10m 双発爆撃機 20m 四発爆撃機 30m たとえば、翼幅31.6m のボーイングB-17が円の直径と同じに見えれば、実際には316mの距離にいることになる。 しかし、射撃を行う上では300mでも316mでも大した問題ではない。 100mの距離では、戦闘機の翼幅は円の直径と同じになる。 距離が大きくなると、翼幅は小さくなって見えてくる。 もし円の直径の半分の大きさに見えれば、つまり、円が翼幅の二倍に見えれば、距離は200mに倍増したというわけである。 もし4倍ならば、その時の距離は400mである。 もし6倍ならば、その時の距離は600mである。 ETC. |
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2倍なら、距離は400mである。 4倍なら、距離は800mである。 |
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四発爆撃機も同様である。
円と同じ大きさなら、距離は300m 2倍なら、距離は600m 4倍なら、距離は1200m |
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戦闘機(翼幅10m )なら、100m毎の見積もりが得られるわけである。 というわけで、 戦闘機一機(翼幅10m ) 円と同じ大きさなら、距離は100m 1/2なら、距離は200m 1/4なら、距離は400m
双発爆撃機の場合、翼幅20m に相当する値は2を掛けたものとなる。
つまり、 双発爆撃機(翼幅20m ) 円と同じ大きさなら、距離は1×2=200m 1/2なら、 距離は2×2=400m 1/4なら、 距離は2×4=800m
四発爆撃機の場合、翼幅30m に相当する値は3を掛けたものとなる。
つまり、 四発爆撃機(翼幅30m ) 円と同じ大きさなら、距離は1×3=300m 1/2なら、 距離は2×3=600m 1/3なら、 距離は3×3=900m
これらを一通り覚え、あらゆる機会を捉えて目測の練習をせよ。 そうすれば、もう戦闘中に大きなミスを犯すことはないだろう。
付属の写真では、前述の全てのポイントは明白に思えるだろう。 しかし、戦闘中には、遠近感やその他の要因により、距離は実際よりはるかに小さく思えるであろう。 標的が円の何分の一かを見積もるとき、完全に機械的なやり方を自分に強制せよ。 そして、標的の翼幅に基づいて1か2か3をかけよ。 この方法でのみ、正確な戦闘距離の目測が可能なのだ。 覚えておくこと:
敵に警報を発し、奇襲のチャンスは台無し、敵に有効な防御策をとらせる!
例外は四発爆撃機への前方攻撃で、このときは800mで射撃してよろしい。 E 偏差 標的めがけて射撃すると、弾が届くまでに一定の時間がかかる。 もし標的が動いていれば、標的は弾の飛翔中に一定の距離を移動するだろう。 標的に命中させるためには、狙いをその距離の分だけ前方の、標的の飛行経路上に定める必要がある。 |
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もしも敵に正面か背後からまっすぐに攻撃を加えるのなら、偏差は必要ない。 狙いは標的に直接定める。 |
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以下の参考写真をみれば、さまざまな位置での偏差を理解できるだろう。
Fig.15 3/4Rの偏差 Fig.16 1Rの偏差 Fig.17 3/4Rの偏差 Fig.18 1Rの偏差 Fig.19 1/4Rの偏差 Fig.20 1/2Rの偏差 目前に敵を捉えたあらゆる状況において賢く偏差を当てはめよ。 ・・・・素早く、正確に目測し、狙いを定めよ。 それには練習を重ねるしかない。 出来るかぎり何回も練習すること。 偏差目測の練習はいくらやっても足りないくらいだ。 偏差を計算するだけでは十分ではない。 偏差が正しい方向に取れていることを確かめること。 敵の飛行経路はつねに偏差リングの中心を通らねばならない。 このような事ではいけない: |
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水平飛行中の戦闘機は下降している(機首下げ)ように見える。 このため、下方を狙いすぎる傾向が生じるだろう。 爆撃機が水平飛行しているとき、とりわけ爆弾を搭載しているときには、爆撃機は上昇中(機首上げ)に見える。 この場合は、上を狙いすぎるようになるであろう。 注意深く敵の飛行経路を注目せよ! 偏差が正しくとも、敵の上や下を撃ったのでは価値がない。 通常、見積もられた偏差は小さすぎるものだ。 確信が持てない場合、操縦棹を緩めるだけですぐに偏差を減らすことができるのだから、小さな値よりは大きな値を選びたまえ。 しかし、とりわけ急旋回中は、もし偏差を増し弾道を敵の前方へ指向しようとすれば、旋回をもっときつくする必要がある。 大抵それは無理である。 その速度とバンク角では失速すること必至だからである。 おまけに、すぐにブラックアウトし、しばらく何も見えなくなり、結局は射撃できないだろう。
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