童友社1/350松本城を作る
実物は貴重な現存天守、キットの方も大胆な空間構成と繊細なディテールが美しく、城プラモのなかでも人気の高いアイテムであろう。
しかし、いざ作ろうとすると、これがなかなか手ごわいキットなのである。
作りにくい原因は主に3つ、
1. 白壁と板壁が別々の部品になっているため部品点数が多い
部品を丁寧に整形しつつ淡々と作ればよいだけの話だが、微妙な誤差が生じがちなので仮組みスリ合わせは必須。
基本工作における注意点は次項「一般的注意」で述べる。
2. 寸法の遊びが大きく、どこに合わせてよいか分からない
具体的には後述。現物とキットの写真を並べ、組み立てのポイントを述べる。
3. 部品の合いが悪いところがある
小天守の屋根など、キットに責任があると思われる部品は散見される。具体的なポイントと対策は後述。
なお、説明文中の建物の階数は、単純に外観の階数で統一している。正式には何層何階と呼ぶべきだが、ややこしくて書いてる方も間違えそうになる。
■一般的注意
なにしろ金型は1971年製という古いキットである。ガンプラのようにサクサク作れる訳ではない。
ここでは、ニッパーやヤスリ、接着剤などは使いこなせるレベルの方を対象に、昔のプラモデルに特有な注意点などを解説する。
よく問題となるのは次のような点である。
突出しピン跡……金型から成形品を押し出すピンの穴がパーツに残ったもの。
バリ………………たい焼きの周囲に皮が薄くはみ出してるみたいなもの。最近のプラモではまず見かけないが、昔はプラ板のかわりに使えるくらい大きなバリも珍しくなかった。
抜き勾配…………金型から成形品を抜き易くするための勾配。垂直であるべき面が傾斜しているのはこれが原因。
これらはパーツが合わない原因となるので、仮組みして干渉する場合は削っておく。見栄えの悪いバリも削り落とす。
ホゾ穴にバリが出ているときは削っておく。そもそも古いプラモの場合、ホゾ穴は参考程度に考えた方がよい。仮組みして合わなければ、ホゾは切り飛ばして自分で位置決めをする。
なかなか完成しないとウンザリするので、効率よく作れるよう工夫しよう。私は工程ごとに使うパーツをすべて切り離し、一気に湯口の処理などを行っている。似たようなパーツが多いので、パーツに油性ペンで番号を書いておくという手もある。
■組み立ての順序
位置決めの都合から、大天守、附櫓・月見櫓、小天守の順に作る。
■大天守を作る
鴟尾のパーツが折れやすい。仮組みしている間に破損する恐れがあるので、パーツNo.66は完成直前まで接着しない方が無難。小天守のNo.96も同様。
大天守の屋根(パーツNo.64)、大きな湯口がモールドを潰している。こういうのは、まず湯口を凸モールドの高さまで平らに削り、デザインナイフでアタリとなる溝を掘り、それを針ヤスリや彫刻刀で広げてゆく。最初からフリーハンドで溝を彫ると曲がってしまうことが多い。
唐破風(パーツNo.60)は厚すぎ、屋根と干渉する。垂木など屋根裏のモールドを削って合わせれば干渉を防ぐことができる。
一階と二階の平面形は直線ではなく、わずかに弓なりである。これはパーツを曲げれば簡単に再現できる。ただ実施しても殆ど目立たないので自己満足の域を出ないが。
格子の裏側下端にある突起は削り取っておくと見栄えがよい。なお、ここでは格子の本数が少ない点には目をつぶっている。手を加えるならエバーグリーンの0.5mmプラ角棒など使って細工する。
■石垣にガイドラインを設定する
キットのままではガイドが低く、また建物と石垣の遊びが大きすぎ、位置決めがしづらい。建物を配置する前に1mmプラ角棒などを使ってガイドを追加しよう。
その際、絶対に譲れない造形上のポイントをしっかり固めるようガイドを配置する。すなわち、
・天守台と大天守は平行
・小天守、ならびに附櫓・月見櫓は大天守に対して平行ではなく、約5度の角度がついている
・大天守北西角の続櫓と天守台は左揃え
■辰巳附櫓・月見櫓を作る
この部分は合わせ位置が分かり難く組みづらいので、写真つきで解説する。
なお、ここでは各櫓の一階と二階を接着する手順で組み立てたが、一階を石垣に接着する場合でも合わせ位置は同様である。
●辰巳附櫓二階
ここを最初に作る。各部の位置決めの際に基準点となるので。
下は工作派鉄道模型界に昔から伝わる作法。パーツが板なれば、まずはL字に組むべし、然るのち箱に組むべし。←あくまで基本ですから臨機応変にね。
あとで屋根にきちんと収まるよう、屋根に載せて位置決めする(まだ屋根とは接着しない)。
●月見櫓
ベテランの方なら、廻縁のパーツを薄く削って手すりだけ残してみよう。
これは艦艇モデラーに昔から伝わる秘法で、この方法でカタパルトのトラスを抜いてしまうツワモノもいる。うまくいけばカコイイが失敗すればパーツはオシャカというバクチのような技法である。
加工後のパーツは折れやすいので取り扱いに注意。仮り組み、摺り合わせは事前に済ませておく。
●各部の組み立て
ここまで組んでおく。
辰巳附櫓一階の縦幅が短いので、上端に0.3mmプラ板を貼っておく(一階を石垣に接着するなら貼らなくてよい)。
合わせ位置に注意して組み立てる。
辰巳附櫓二階に位置を合わせて一階を接着、このとき○印の部分が干渉するので現物合わせでスリ合わせる。ちょっと角度を急にする感じで。続いて辰巳附櫓一階に左寄せで、月見櫓を接着する。
写真を撮り忘れたので、月見櫓下部まで接着された状態でご勘弁。
附櫓一階の北面も二階にあわせて接着……ヒイッ、また合わないぞ。
写真と照合すると月見櫓北面が長すぎるようだ。
合わせてみせる、ええ合わせますとも。……のだめと共演する千秋の様相を呈しつつあり。
附櫓一階の壁を削ることにする。仮組みのまま、干渉する部分を針でゴリゴリやってケガキ線を引く(写真は目立つようスミ入れしてある)。ケガキ線に従って切り欠いたパーツを合わせれば、ホラ、このとおり。
廻縁のパーツは両端を微妙に削り、長さを変えずにスペースに収めることができた。
また、附櫓一階をそのまま接着すると傾くので、上端を現物合わせでスリ合わせる。屋根が反っている場合、平行が出るよう修正する。
月見櫓下部をコの字に組み、石垣にあわせながら上部に接着する。
辰巳附櫓の屋根は大天守の屋根に一体で成形されている。大天守を配置して附櫓に屋根をかぶせてみて、月見櫓下部の位置を微調整する。
月見櫓東面は上下が揃わず、下がわずかに出ている。作例はちょっと出過ぎているが、引っ込めると今度は大天守の屋根などと合わなくなるので致し方ない。これが最も破綻の少ないツジツマの合わせ方だと考える。
辰巳附櫓の南面は石垣から張り出すのが正しい。
月見櫓北面下部の部材が欠けているので埋めておく。
■小天守を作る
各階ごとに作る。まだ接着しない
■大天守と小天守の接合
多分このあたりで、合わないと云って泣きだす人が出てくる(笑)。私だって泣きそうになった(苦笑)。
その原因はというと、どう考えても小天守の屋根が大きいとしか思えない。
実物や図面をみた限りではパーツの形状は正しいようなのだが、合わない以上は仕方がない。どこかに数値上の矛盾があるのだろう。
キットの箱写真にも明瞭に写っているが、小天守二階の屋根は大天守屋根の棟にギリギリかからない位置にある(下の画像は箱写真の拡大)。
しかし、キットをストレートに組むと小天守の屋根が引っかかる。これは切り詰めるしかあるまい。
写真左は加工前後のパーツを並べた。西面をかなり大きく切り欠き、東面も壁のモールドと干渉する部分をわずかに削っている。裏側も薄く削った。
以下の数字はあくまで目安に過ぎない。仮組みしながら慎重に調整する。
大天守北面の突起も邪魔みたい。けーずーるー。
どうにか合わせた状態。もしかすると屋根が微妙に長い、というより建物が短いのか。そうなると修正は大仕事なので気付かなかったふりをする。
やっと組み立て終了、ああ疲れた。いやしかしカッコいいなあ。
追記
当店ではスタンダード松本城専用のエッチングパーツを販売しています。詳しくは
組立説明書をご覧ください。
■おまけ 童友社のスタンダード松本城について
相原模型が1971年に開発した金型を使用して生産されている。松本市教育委員会が1966年に発行した「国宝松本城」の図面を主な資料として設計されたものと思われる。
相原模型は1965年に姫路城を発売して以来、名古屋城、大阪城などの城プラモを次々と開発、並行して甲冑武具のキットを発売するなど、日本の伝統工芸に関する見識を着実に高めていた。
その相原が当時最新にして最高の資料に基づいて設計しただけに、主要構造物に関しては形状・細部ともかなり正確で、大天守に対して小天守や月見櫓などが曲がっている様子や、天守台周辺の地面の傾斜にいたるまで現物そのままに再現されている。
一方で「国宝松本城」に図面が収録されていない埋門跡周辺の形状などは多少ラフである。
また、石垣に微妙な表情を与える三次曲面や、大天守の糸巻形の平面形状までは表現しきれていない。瓦の装飾には省略されているところもある。
埋門周辺の石垣を屈曲させたアレンジは「国宝松本城」収録の配置図を拡大解釈したものと思われ、実物とは異なっているが、結果的には構図に絶妙なリズムを生み出している。
埋橋は、長さはほぼスケール通りだが、幅や高さはかなり大きく誇張されている。それにともない石垣は全体的に高く、堀は実際より深めにアレンジされている。これらのデフォルメは埋門から入城する際の第一印象を重視したものであろう。
■主要参考文献
国宝松本城 昭和41年 松本市教育委員会
1/2500 松本市都市計画図 地図番号18-1-1 松本市役所計画課
なお「国宝松本城」収録の図面は学研の歴史群像名城シリーズD「松本城」に引用されている。図面が必要な場合、こちらを中古で探したほうが早いかもしれない。
追記
松本城の図面は「国宝松本城」のサイトの「収蔵品のご案内」にあります。閲覧は
こちら。
2024.7.10更新
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